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私は今日も、死なないことにした
正しさを失ったあの日から、もう五年が経った。
憂鬱な日々は今も続いていて、死にたいと願ってしまう夜に身も心も潰されそうになるけど、その度に私は私を覆し、期待外れの明日を選んでいた。
「大丈夫。」
鏡の前で見慣れないスーツ姿の女性が、効き目がない魔法の言葉を唱える。
笑顔の練習は虚しくなるだけだったから止めた。
止められるようになった。
高校を中退した私に対しての社会からの仕打ちは、当時の私が思っていたよりも優しく、人並みの生活を送ることには全く問題がない程度で、積もる後悔によって心が死んでしまうこともなかった。
あの選択は正しかったのか、それとも間違っていたのか。
私にはまだわからない。
でも、失ったことで手に入れたものがこんな日々だとしたら、あの日の私はきっと、間違ってはいない。
「生きていてくれてありがとう。」
私は彼女にそっと呟いた。
壁に掛かった時計を見る、深呼吸をする。
まだ始まってもいないのに心臓の鼓動は早く、大きくなっていく。
私は弱い。
それでもいいんだ。
強くなくていい。
逃げてもいい。
優しくなくていい。
笑わなくてもいい。
泣いてもいい。
言えなくてもいい。
未来の私が私を許さないとしても、私は今までの全ての私を許すよ。
無駄死になんかさせない。
だから、
「行ってきます。」
相変わらず返事は聞こえなかった。
それだけのことで死にたくなっていた私が、今もまだここにいる。
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